2025-12-12
約1000年にわたり造営が続けられた敦煌の石窟は、絵画、塑像、建築物、装飾が一体となった「芸術の殿堂」で、文化に奥深い影響を及ぼし続けている。敦煌には、私の芸術家としての人生のルーツがあり、生涯続く研究のテーマであり、教育者として基盤でもある。(文・常沙娜 中央工芸美術学院元院長)
1943年、12歳だった私は父である常書鴻と共に敦煌に行った。そして、その後の数年間、大人達と共に、洞窟の中で壁画を模写した。下書きをして、輪郭を描き、着色し、色をぼかすなどの各プロセスにおいて、私は敦煌芸術の美しさを感じ、その「栄養」をしっかりと吸収した。敦煌芸術の深い味わい、奥深い伝統文化が、私が一生にわたって芸術の創作活動やデザイン、芸術の教育に携わり続けるための思想のベースを築いた。そのベースとは優れた伝統文化芸術をしっかりと学び、それを理解した上で、伝統を継承し、発揚し、イノベーションすることだ。
1952年、アジア太平洋地域平和会議が北京で開催された。林徽因氏の指導の下、私が敦煌壁画からインスピレーションを得てデザインした景泰藍による作品「和平鴿大盤」やシルクのスカーフのデザインが贈呈品として各国の代表に贈られた。それが、私がデザインに携わるようになる重要な起点となった。その後、私は首都「10大建築物」のデザインを担当するようになった。例えば、人民大会堂の宴会ホールの天井の図案は、敦煌の唐代の藻井の模様からインスピレーションを得た。蓮の花を中心として、建物の構造や照明、換気といった機能の必要性も考慮し、敦煌の花型の図案と近代的な機能を組み合わせ、民族的な雰囲気を備えた空間装飾に仕上げた。
敦煌芸術は、ほぼ全ての時期の私のさまざまなカテゴリーのデザインに影響を与えてきた。優れた中華伝統文化は枯渇することのないイノベーションの源泉であって、近代的なデザインのインスピレーションの宝庫だ。敦煌の各種装飾図案の要素とスタイルは、どれも現代の生活に必要な各種装飾品のデザインに取り入れることができる。敦煌芸術は優美で、そこには古代の労働者の知恵や思いが込められており、生活の真・善・美だけでなく、民族のスタイルや気質も体現されており、近代的なデザインにおいて伝承し、発揚し続ける価値がある。
敦煌の壁画における装飾図案は、部分的内容や装飾であるものの、不可欠なものであり、それは敦煌の石窟芸術全体の歴史と作風を反映しているほか、非常に高い参考と応用の価値がある。例えば、髪飾りや仏具の図案は、現代のアクセサリーや器具のデザインにインスピレーションを与える。また、王座の図案や幾何学模様は、近代的な建物の内装や織物のデザインの参考になり、手の仕草や動物、樹木、雲紋といった図案は、近代絵画や平面デザインの応用要素となる。
「民族的、合理的、大衆的」というのは、いつの時代においても、デザインにおいて発揚すべき原則となる。数十年にわたるデザインに関する授業と実践において、私は常に、「源と流」という観念を強調してきた。「源」とは伝統、つまりは敦煌の芸術を指し、「流」というのは応用、今の時代の生活に順応するのに必要なアートデザインのイノベーションと発展を指す。優れた中華伝統文化を源として、それに根差さなければ、芸術の「流」は、バイタリティや創造力を備えることはできないと、私はひしひしと感じている。
あっという間に、私は90歳を超えてしまった。これまでずっと、父親と林徽因氏の教えや期待を心に銘記してきた。2人は私が図案デザインの授業と近代的なデザインの応用のニーズを結びつけ、敦煌の図案を系統的に整理して研究することを願っていた。私はそれをずっと行い、先達との約束を守ってきた。ただ、それは始まりに過ぎない。私もその教えと期待を次の若い世代に託している。一人でも多くの若い学者、デザイナー、芸術家が、敦煌芸術の保護や研究、学習、発揚を地道に、かつ着実に行っていくことを願っている。代々伝承し、発揚することで、中華文化は必ずさらに輝きを増していくに違いない。
「人民網日本語版」2025年12月9日